大塚「花重」

美しき宮保鶏丁  

食べ歩き ,

「宮保(ゴンバオ)」という名がつく四川料理がある。
清時代の四川総督の名前に由来し、代表作が「宮保鶏丁(ゴンバオ ジーディン)」になる。
まあ簡単に言っちゃえば、「鶏とピーナッツの甘辛炒め」だな。
これは日本式にアレンジされて、四川料理店はもとより、多くの人に愛されてきた。
だがこの料理は深い。
辛味、しょっぱさ、甘味、痺れ、酸味、うまみ、そして油のコクという七つの味とそれぞれの香りが、バランスよく、どれかが突出することなく、まとまっていなくてはいけない。
また鶏もネギも、正確に同寸で切られ、口の中にピーナツと入れた時に、三者が馴染まなくてはいけない。
またこの料理は、瞬間的に強火で火を通す「爆」という調理法で作られるため、手際の良さと火力を見極める技も必要となる。
昨日出された料理は、どれも良かったが、特に唸ったのは「宮保鶏丁」だった。
ご覧の通り油がたっぷりと使われているが、微塵も油っぽくない。
後口のキレがよく、甘、辛、酸、塩気、旨などの丸みがきれいで、鶏肉の淡い滋味を引き立てている。
そしてなにより香りがいい。
唐辛子や花椒などによる刺激的な香りとナッツの甘い香りが抱き合って鼻を刺激し、ぐんぐんと食欲を沸かせるのである。
なんか色々分析的に書いたが、しみじみと美味しいわけね。
まだ若いシェフで、店も2月に開店したばかりだが、このような基本料理を、上手に作ってくれると、たまらなく嬉しい。
また通わなくてはならない店が増えちゃったな。
大塚「花重」にて。
東京最高23