この店に来て、いつも思う。
どの料理も、お代わりしたくないのである。
例えばパスタの量は30gぐらいだろう。
とびきりにおいしい。
だが食べ終わって、お代わりしたいとは思わない。
その少ない量だけで、気持ちが満たされてしまう。
おそらく幸福や喜びを得て、もっと欲しいと思う時点では、人間は満たされていないのだろう。
真の充足とは、量に関係なくやってくるのだ。
★Testaroli Al Pesto Genovese
テスタローリ ペスト ジェノヴェーゼは、最古のパスタと言われるテスタローリにジェノヴェーゼソースを合わせた料理である。
機械に任せず、手で粗くつぶしたジェノヴェーゼソースの自然が、わらびもちのようなモチっとした食感にからまる。
洗練されているけど原始的な感じがあり、優しいけとたくましい空気がある。
自然とは決して一面では語れない。
このパスタはそのことを教えようとしているのだろうか。
Crzetti con Agnello e Carciofi
8の字型のコルツェッティ 子羊の白い煮込みとカルチョーフィ。
マジョラムの爽やかな香りの中で、子羊が香り、カルチョーフィのほろ苦さと拙い甘みが光る。
マジョラムが生い茂る草原で、子羊が戯れている。
煮込みなれど、子羊感をどれだけ残すか精妙に計算されて仕上げた凄みがあって、それが胸を打つ。
料理の深淵をのぞかせる。
この二つのパスタもそう。他の料理もそう。
伝統料理ながら、磨きをかけ、精緻に作り上げて、無骨さを残しつつもモダンという、今を生み出している。
イタリア料理の原理主義者、小池シェフの作る料理は、おそらくイタリアでも食べることが叶わない、唯一無二のものであろう。
このレストランが日本にあることを、日本人として誇りに思う。
「オステリア・デッロ・スクード」リグーリア州の全料理は、別コラムを参照してください