皿に粘らない。箸に粘らない。歯に粘らない

食べ歩き ,

皿に粘らない。箸に粘らない。歯に粘らない」。
「三不粘」は、そのことから付けられだ菓子である。
元々は、中国王府井の「承華園」で生み出され、北京の「同和居飯庄」に引き継がれたという。
玉子、デンプン、油だけの素材ながら、難易度が高く、日本では滅多に見かけない。
僕も小川町「竜水楼」でしか食べたことがない。
「京静華」宮本シェフは、最後のデザートとして作ってくれた。
ぼってりとしたその菓子は、箸でつまんで食べようとすると、つうっと伸び千切れる。
口の中でもちもちと弾みながら、油のコクと卵の甘み、砂糖の濃い甘みが一体となって境界線がない。
その丸い甘みは、中国人でもないのに、妙に懐かしく、噛めば誰もが笑顔になる。
当然盛られただけでは満足できず、もう一つ、また一つとおかわりしてしまう。
こうして人は、粘らない軽やかさの中にある、味わいの太さに惹かれていくのである。