国領「ドンブラボー」

皿から口へダイブ。

食べ歩き ,

「美味しくて、皿から口に飛び込んでくる」という意味を持つ料理、サルティンボッカは各地にあるが、最も有名なのは、ローマ風である。
仔牛肉を叩いて薄くし、生ハムとセージを巻いて小麦粉をはたき、オリーブオイルでソテーをし、白ワインを振り入れ、スーゴディカルネを入れ、バターでモンテして仕上げる。
もとは北イタリアの料理で、イタリア統一後の料理だという。
しかしこの店のサルティンボッカは、様子が違った。
厚いのである。
豚の肩ロースを使っている。
「違うじゃないか」と囁く保守的な自分を制し、虚心坦懐でいただいた。
歯はきめ細かい肉に抱かれるようにして入っていき、ゆっくりと肉汁が舌に流れ出す。
豚脂の甘い香りの向こうにセージがいる。
豚の滋味を膨らますかのように、ハムの甘みがそっと支えている。
なにより加熱具合がいい。
肩ロースは、間に脂と筋が入ったいるため、背脂の食感との差が気になることが多い。
また中に入った筋に火が通っておらず、歯触りが悪くなることが多い。
だがこのサルティンボッカは、筋が気にならないどころか、グッと噛めば均一に歯が抱かれるのである。
仔牛でなく豚だが、このほうが肉の本質を生かしている。
なによりこの方が、皿から飛び込んできて「うまいっ!」と、叫ばせるのであった。
国領「ドンブラボー」にて。