総勢三十数名。全員白のシャツに、グレーか黒のズボン。
日本橋三越前にある「そばよし」の昼時は、サラリーマンで溢れかえっている。
店内だけでなく、行列もできているほどであるから、女性は入りづらい。
そう思っていたら、黒のワンピース姿の女性がひとり、そばを食べていた。
ちくわ天そば(360円)を、上品に食べている。
白シャツ軍団は皆、丼を置いたまま食べているが、彼女は手で持ち、背筋を正し、悠然と食べている。
猛暑の中の涼風である。
猛獣の中に放たれた、鶴一羽である。
どういうわけだが、彼女を見ているうち、猛然とお腹が空いてきた。
「そばよし」は、カツオ問屋が営むだけあって、つゆがうまい。
雑味がなく、いやみがない。
カツオだしの香りが、ぷんと漂い、キレがいい。
つゆがうまいんだから、もう少しそばに力があってもいいのになあと、ずるるる。
頼んだのは、かき揚天そば390))円に、野菜天とわかめのトッピング。
たっぷりのわかめの上に、かぼちゃ、茄子、しし唐の天ぷらがのり、分厚いかき揚天が鎮座している。
どうだ。ゴーカだろう。ボクって金持ちだろうと周りを見回せば、隣の二十代後半男性身長180㌢は、かき揚天そばにご飯大盛り。
そばをおかずに、白飯を食べている。
やられた。そうきたか。
そばがなくなると、卓上のカツオ節粉をかけ、醤油をたらり。後はわき目も振らず、一気呵成。日本の未来は明るいぞ。
その隣の、スーツ姿の五十代後半男性身長百七十センチは、めかぶひやしそば。そばの上にめかぶと糸海苔、丼の縁には梅干ペースト。
食べるペースが遅い。食欲ないのかなあ、元気出せよ。
隣の50代後半男性・身長160㌢は、穴子天丼セット(小穴子天丼とかけそば)。
ご飯の上にのった穴子天を、そばつゆにどぶんと浸し、ご飯に戻して掻き込んでいる。
そばつゆで、茶色く染まったご飯。ああ、うまそうだ。
よし。次回は、これで決まりだな