白いご飯の誠実

食べ歩き ,

最近、料理の最後に炊き込みご飯が出されることが多い。
それはそれで嬉しいが、米料理がでしゃばると粋ではない。
今までの素晴らしい料理が、流れてしまうからである。
白いご飯を食べながら、本日の料理の味わいに感謝して締めくくる。
それが、日本料理の清らかさではないだろうか。
「姉が作っている、新潟関川村のコシヒカリです」
赤坂「渡なべ」ではそう言って、羽釜で炊かれたご飯が出される。
光り輝く清いご飯は、香り高く、優しい甘みに満ちていて、一口食んだだけで幸せが満ちてくる。
これをおしんこで食べ、鯛茶漬け用に浸かった鯛で食べ、最後に少しだけ鯛茶漬けにして食べる。
それが正しい過ごし方だろう。
しかし僕は見てしまった。
立派な筋子を見てしまった。
もう止まらない。
「すいません、筋子でおにぎりを作ってくれませんか」と、つい無粋なわがままをお願いしてしまったのである。
「はい」渡辺さんは、ニコニコして、熱々ご飯を軽やかに握ってくれた。
一口頬張ると、筋子が現れる。
卵の甘みと塩気を、ご飯が受け止め、やがて一緒になって喉へと落ちていく。
筋子もご飯に包まれて、嬉しそうである。
少し温められて甘みを増し、それがご飯と相待って、顔はだらしなく崩れ、心は緩んで、鼻息が荒くなった。
こりゃあ最後の晩餐に選ぶのは、塩おにぎりを返上して筋子おにぎりかな。
赤坂「渡なべ」の料理は、別コラムを参照してください