肉との出会いは続く。
「甘辛い味わい。そして鶏との相性でうならせるんは、京都の「草食なかひがし」や。かしわのすき焼きとゆうんを冬にやらはるんやけど、かしわの滋味と葱の甘味を堪能した後がいけません」。
「ん? なにがいけねぇんだ」。
「お鍋に鶏の脂とうまみが滲み出た割り下が残るやろ。これを絡めるようにしながら堀川牛蒡をさっと炊くんですわ」。
「そりゃいけねぇ」。
「濃厚なうまみの中からごぼう特有の、土臭いような青臭いような香りがぱっと立ってね。満腹なのにまた競い合うようにして食べちゃうという」。
「間違いない」。
「さらにこれを、玉子とじにして熱々ご飯に乗せてね。掻き込んでごらんなさいあなた。玉子と噛み締めれば出る牛蒡の甘味を、ご飯が受け止めて」。
「こりゃあ、我慢できる奴はいねぇだろうなぁ」。
「いまへん。ぜったいに、いまへん」。
「ほかにねぇのか」
「なかひがしでは鶉とも炊き合わせていただきました」。
「また危険だねぇ」。
「鶉と堀川、蕪に九条ネギの炊き合わせですわ。でも明らかにご主人は鶉とごぼうの調和に焦点を絞っている」。
「鶉と合うのか」
「はい。だしも控えめにしながら鶉の鉄分にごぼうの野生をぶつけた、猛々しい調和ですわ」。
「俺らの底力を信じた、敬意が伝わってくるをじゃねえか。嬉しいねぇ」。
「でもそんな底力、肉や魚と相性がいいことを知ってはるのは、日本料理の料理人だけやない」。
「そう。本来は食べない、フレンチやイタリアンのシェフたちも使い出した」。
「その元年があるんを知ってはりますか」
「あたぼうよ。1990だろ。ごぼう開国記念年じゃねえか」。
「記念年の料理は衝撃的でしたなあ。その辺りのことを、来月は牧元はんに語っていただいて、われわれの地位向上、名誉上昇に貢献していただきましょか」
「賛成」。