煮込み 体を芯から温めるコクとまろみ(一九九九年二月号)

  • 岸田屋

岸田屋 月島 病み付きとなるモツ類の歯触りとコク

「酒・岸田屋」の大暖簾を割ると、店内は戦後の下町の風情。安く質が高い刺身と煮込みで知られ、十八席のコの字型カウンターは、開店と同時に満席。

牛煮込みは四百円。平皿にたっぷり盛られ、チョコレート色のどろりとした汁の中に、牛の各部位が混在している。一口大に切られたモツ類は、大腸、脾臓、軟骨などが見受けられ、食べるとグニュ、ふわっ、コリッと様々な歯触り楽しく、食べ応えがある。臭みは微塵もない。汁は、最初多少味が濃く感じるが、次第に病み付きとなり二~三人前頼んでしまう。その秘密は、牛脂が生み出すコク。特注で葱も入れてもらえる。

中央区月島3-15-12  tel.=03-3531-1974

営業時間=17:30~23:00 定休日=日曜祭日

 

山利喜 森下 長年にわたって積み重ねたまろみとコク

交差点近くの大きな赤提灯が目印。創業七十数年になる下町を代表する名酒亭。

名物の煮込みは四百八十円。同じ鍋で煮た玉子を入れると五百三十円。モツは一口大に切った鮮度高い牛シロ(大腸)のみを使い、八丁味噌、赤ワイン、香りづけのブーケガルニとともに、三十年近く使い込まれているという大鍋で、毎日八時問かけて煮込まれる。盛られるのは土鍋風の小鍋。シチューを思わせる濃茶色した煮汁は、見ためと違ってしょっぱくはなく、実にまろやか。それでいて人の心を捉えて離さない深いコクがある。一つの料理としての完成域に達した文化を感じる味わい。煮込みの相手は、芋焼酎・富乃宝山でもよし、ガーリックトースト(一百円)を頼んで煮汁に浸しながら、チリのサンタカロリーナのメルローと合わせるのもよし。

江東区森下2-18-8 tel.=03-3632-1638

営業時間=17:00~22:00定休日=日曜祭日

大はし 北千住 牛のにこみでわたる大橋

誰が呼んだか「岸田屋」「山利喜」「大はし」が、「東京三大煮込み」。あるいは「大坂屋」を入れて「四大煮込み」という。創業明治十年。年月と客の愛情、酒が染み込んだ風情ある店内。煮込みの大鍋を囲むようにカウンターが配されており、「名物にうまいものあり北千住/牛のにこみでわたる大橋/千住名代牛にこみ肉とうふ」と書かれた短冊が、奥の梁から垂れ下がっている。

その名物は三百二十円。「肉とうふ」は、煮込み鍋で煮込まれて味の染みた豆腐(四分の一丁分)と煮込みの盛り合わせ。さらに品書きにはないが、「とうふ」と頼めば、豆腐だけが二つ、「玉子入り」は、大鍋に生玉子を割り入れ、半熟で取り出して肉と一緒に盛ってくれる。いずれも平皿。煮汁は、醤油とざらめによる味付けだが、決して醤油味や甘味が勝つ事なく、牛肉のうまみがうっすらと溶け込んだ丸い味わい。肉は牛カシラ肉とすじ肉のみ。うま味が逃げていないカシラは柔らかく、すじはプリプリ。ふにゃりとなって甘い豆腐もぜひ。独酌客多し。

足立区千住3-46  tel.=3-3881-6050

営業時間=16:30~22:30(祭日~21:00) 定休日=日曜日

(現在改装中)

 

大坂屋 門前仲町 大正十三年来の味わい名物串煮込み

煮込み専門店。「仲町名物」の文字が記された提灯が目印。店内は約三坪半、八席のカウンターだけ。白木のカウンターの真ん中がくり抜かれ、直径七十センチ程の大鍋が埋め込まれている。そして鍋を埋めつくした茶褐色の汁の中には、煮込みの串が多数乱立している。

一串百円。一人前四本。牛の脾臓、シロ、肺臓、軟骨がそれぞれ串刺されている。注文すると女主人が菜箸で鍋をまさぐり、串だけを皿に盛る。肉も串もどろりとした煮汁に絡まり真茶色。小さなおしぼりが添えられる。

八丁味噌で味つけた煮汁は、甘くこっくりとした味わいで、くどさがない丸い味。一緒に煮込んだ玉子と煮汁を小鉢に盛ったスープ(三百円)もぜひ。

江東区門前仲町2-9-12 tel.=03-3641-4997

営業時間=18:00~21:00定休日=日曜日

 

高木 滝野川 じっくりと丹念に煮込まれた豚のモツ

創業大正十三年。明治通りに面していて風情漂う店構えを見せる。新鮮な焼きとん類が人気。

煮込みは四百円。コの字カウンターの目前にある大鍋で、グツグツと煮込まれている。鍋の前には常に店員が一人立ち、丹念にアク取りをしている。濃いめの茶色をした味噌味の煮込みだが、煮汁は注がず、穴開きお玉にてモツだけ盛られる。モツは、一口大に切った豚のシロ(大腸)で、分厚く、くにゃりとした歯触りが魅力。小鉢に入った玉葱の微塵切りは、うれしくもかけ放題。

北区滝野川7-47 tel.=03-3916-1750

営業時間=17:00~22:00 定休日=日曜祭日

閉店

 

埼玉屋 東十条 もつどうふを囲む冬の宵

うまい焼きとん屋にうまい煮込みあり、という定説の明証。鮮度高い豚や牛の刺身と串焼が人気で、焼き台を囲むコの字型カウンターと小上がりは、いつも満席。

薄茶色の味噌味もつ煮込み(二百七十円)は、牛の大腸と蒟蒻を煮込んだマイルドな味。クニャリと噛めば甘さが滲むモツに、新鮮さが光る。今の時期ならではのお勧めが、「もつどうふ」八百円。煮込みに豆腐を入れ土鍋で煮込んだもので、熱々に七味をかけて食べれば、体を芯から温めてくれる。お相手には、凍らした焼酎をジョッキに人れ、生ビールを注いだ生ホッピーがお勧め。

北区東十条2-5-12 tel.=03-3911-5843

営業時間=不定 定休日=土日祭日

鳥芳 西国分寺 もつ各部位の歯応えの違いを楽しむ

良質な焼き鳥と新鮮なモツ類に出合える、一軒家の焼き鳥店。界隈随一の人気店で、百人も入れる店内は開店と同時に満席。煮込みは四百円。ご主人自ら立川の食肉処理場で仕入れた牛の直腸、小腸、ギアラ(四番目の胃)、豚の大腸、直腸、ガツ(胃)と、豆腐、ごぼう、蒟蒻を、信州白味噌、醤油で味付け、人参、玉葱、葱、にんにくを隠し香味にして、四時間煮込む。小鉢に盛られ、小口切りの葱を盛った薄茶色の煮込みは、甘味が潜むあっさりとした味わいで、各部位の異なる歯応えが楽しい。

国分寺市泉町3-37-25 tel.=042-323-9956

営業時間=16:30~23:00 定休日=日曜祭日

 

かねます 勝どき肉の滋味に富む和風シチュー

晴海通りに面した、名酒亭の呼び声高い立ち飲み屋。

開店と同時に満席となるので、早めに訪れるべし。鱧おとし、甘鯛の蓮根蒸し、平目のこのこ和えなど、酒飲みのツボを押さえ、季節感あふれた肴類が用意されている。

人気の牛煮込みは八百円。煮込みというより上質の和牛バラ肉による和風シチュー。ゴロゴロと入った一口大の肉は、うま味が逃げておらず美味。汁もほんのりと甘くやさしい味である。一緒に煮込まれて味の染みた人参は、口の中でほろりと崩れる。酒は幻の瀧(純米吟醸)。

中央区勝どき1-8-3 tel.=03-3531-3611

営業時間=16:00~20:00 定休日=日曜日

 

ぶんぷく 中野 名物カレー煮込みは酒によし、飯によし

銘酒をそろえた焼き鳥屋。珍しい「カレー煮込み」(四百五十円)が人気。小丼に入れられた牛モツ(シロ)は、一口大の賽の目状の豆腐が三~四個と、温泉卵が一つ入っている。上にはたっぷりの葱の小口切り。玉子を崩し、ずずっと上質なカレースープのような煮汁を飲み、熱爛を飲めば、体が上気するは必至。もちろん、ご飯をもらいぶっかけて食べても、しごくうまい。

中野区中野5-56-16 tel.=03-3228-4902

営業時間=17:00~24:00 定休日=日曜日

閉店

母屋 池袋 唐辛子味噌の辛味がきいた鳥モツ煮

池袋の人気焼き鳥屋。かつては主流だった、鳥モツの煮込みを出す。鳥の背肝とキンカン(卵巣)、豆腐、大根、葱、にんにく、生姜、玉葱、蒟蒻、ごぼうが入った、具沢山の煮込み。味付けは、鳥ガラスープに、赤味噌と白味噌、それに唐辛子味噌を入れて仕上げる。辛く、体を芯から温めてくれる煮込みだ。豆腐の甘味、野菜の甘味、キンカンのゴリッとした歯触りと甘味、鳥肝のコクが魅力。六百円。

豊島区南池袋1-12-6 tel.=03-5950-0377

営業時間=11:30~13:30、18:00~23:00(土 ~22:00)

定休日=日曜日

写真は大はしと高木