北千住「大はし」

煮込み。

食べ歩き ,

下町の大衆居酒屋にとって、煮込みは欠かせない。

俗に、東京三大煮込みと呼ばれるのは、月島「岸田屋」、北千住「大はし」、門前仲町「山利喜」で、門前仲町「大阪屋」、立石「宇ち多」を入れて、五大煮込みと呼ぶ人もいる。

煮込みは、質のいい肉や内臓を入手し、丹念に下処理をし、長時間かけて煮込む。つまり、手間をかけてもおいしいものを食べてもらおうという、店主の思いが煮込まれている料理なのである。

創業明治十年の「大はし」の煮込みは、その思いが沁みている。

肉は牛の肩ロースとすじで、滋味を含んだロースは柔らかく、すじ肉はプリリと弾んで、コラーゲンの甘みを滲ませる。

長年注ぎ足してきたという煮汁は、醤油やざらめなどでこっくりと甘辛く、丸い、江戸の味。

ここに牛肉の脂やうまみが溶け込んでいるのだからたまりません。

焼酎やぬる燗の相手にすれば、「おかわり」と、つい皿を出してしまう。

すると87歳の大将が、「オイキタ煮込み一つ」と答える。

この威勢のいい声が聞きたくて、また頼んじゃうのですネ。

一度など5皿も食べました。

肉だけの「肉煮込み」と、味の染みた豆腐と盛り合わせた「肉とうふ」、さらには「豆腐だけ」というのもあって、これから寒くなる季節には、実にいい。

ああ、また親父の掛け声と江戸の味に会いにいきたくなった。