富山岩瀬「ふじ居」

深海の輝き。 

食べ歩き ,

今までの白エビはなんだったのか。
ここに来て食べると、そう思う。
「人生を見つめ直す瞬間です」と、藤井さんが言われるくらい、白エビの手剥きは、手間がかかる。
普通は、剥き専門職の女性たちがいて、その剥いた海老を仕入れることが多いという。
しかし大量に剥かなくてはならないために、一旦冷凍するのだという。
そうすると身と殻が離れて剥きやすくなる。
しかしそれでは、深海にいる白海老を水面から上げただけで変化しているのに、余計に繊細な身質が壊れてしまう。
丹念に手で剥かれた白海老のお造りを食べた。
このエビ特有のねっとりとした食感があるが、芯にエビのエビたる強靭な肉体がある。
ねっとりの奥にプリリとした歯応えがある。
そして甘い。
その澄んだ甘みは、いつまでも口の中に余韻となって残っている。
味わいに、深海の輝きがある。
一方殻つきの天ぷらは、加熱されて甘みが膨らんでいる。
小さいので、10回ほど噛めば飲み込んでしまいそうになるが、そうしてはいけない。
よくよく神経を集中しながら20回ほど噛む。
すると、次第に甘みが高まっていくのである。
さらに椀種となった白えびのしんじょうは、なんとも気品のある甘味で我々を魅了しながら、はかなく消えていくのであった。
富山岩瀬「ふじ居」にて。