豆部部長伊藤くん。
豆は幼児がおいしい。
そのことをスペインの人たちは、よく知っています。
日本では大きく育てて売った方が、目方が増えるので、値段もつく。
だから皆大きく育てます。
スペインバスクの人たちも、それをよく知っています。
この季節でしたら涙豆と呼ばれるエンドウの若芽の料理が、有名ですね。
それも小さな豆だけをよって、作ります。
本多シェフは、スナップエンドウからそんな豆だけを取り出し、特別に二つの料理を作ってくれました。
「スナップエンドウ豆のアラブラサ」は、炭で炙ったものとアモンティヤードで香りつけて炙った、2種類のチョリソとあわせ、卵黄を乗せた料理です。
黄身の甘味が広がり、チョリソの旨味が現れ、後から春の香りが漂い出します。
豆の青い香りは、まだつたない。
そだが優しい気分を運んでくる、その弱さに惚れてしまうのです。
黄身やチョリソの味が強い分、余計にその弱さが引き立つのも憎い演出ですね。
もう一品は、「軽い煮込み」と、書かれていました。
涙豆の上にはフォアグラが乗っています。
フォアグラを潰し、涙豆と混ぜて食べれば、ファオアグラの脂の香りが平田豆にまとって豊かな味わいになっていく。
幼児に大人びた服を着せた時のような、晴れがましい気分です。
しかしいつか涙豆は無くなっていく。
無くなっていく涙豆が寂しく、心の涙をこぼしながら、静かに別れを告げました。