汚れを知らぬ空に、雲が横たわる。
海は太陽と戯れながら、あくびをしている。
ヘミングウェイが「老人と海」を書いた、コヒマル村の空と海は、おそらく半世紀以上変わっていない。
堤防に座った老人も、要塞の門番も、何時間も動くことなく座っている。
海に浮かぶ漁師も、釣り人たちも動かない。
魚を釣るという能動的な意識がないのかもしれない。
自然と人間との境目をなくそうとしているのか。
欲という人間の意識を氷解させる、この地の空と海に準じているのか。
少女にカメラを向けたら、彼女は恥じらうことも戸惑うこともなく、じっとこちらを見つめていた。
ファインダー越しに目が刺さる。シャッターを押す指が重くなった。
ただのんびりと釣りを楽しむだけに訪れたヘミングウェイは、キューバを利用しようとする米国の後ろ盾によって腐敗する政治に苦しめられる人々を見て、次第に静観できなくなった。
カストロに資金協力をし、革命後の空港に降り立ってキューバの国旗にキスをし、「わたしはヤンキーではない」と、言ったという
彼は、この空と海が紡ぎだす時間の貴重さを、そこに住む人々の平穏を守りたかったのかもしれない。
ヘミングウェイは、キューバとの国交断絶のニュースを、アイダホで聞き、二度と愛する海と空と人々に会えないことを悟った。
彼がライフル自殺したのは、飛行機事故で悪化した鬱のせいだと言われるが、一説によれば、一生この地に戻れぬ落胆が原因だったとも言われている。
汚れを知らぬ空に
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