気持ちいいかい?」 そうたずねると
「うん、とても」と、団子は答えた。
「でも」。
「いつまでも浸かってはいられないからね」と。微笑む。
「日本橋 よし町」の肉団子は、アンがかかっていない。
塩と甘酢アンが添えられる。
最初は塩をつけて、すかさずビールをぐびり。
恐らく作り置きしていない肉団子は、表面はカリッと香ばしく、中はふんわりと柔らかい。
油でなんて揚げてないよというばかりに、油切れよく、サクサクふわふわと舌の上で消えていく。
次は甘酢アンに浸けよう。
でも、たっぷりからめるようにつけてはいけないよ。
全体にからめてしまうと、肉がアンに甘えてしまうからね。
肉が、自分の尊厳を忘れてしまうからね。
だから半身浴さ。
浸けるとちょうど半身浴になるように、アンの量も計算されているのかもしれない。
こいつを二口で食べる。
アンがかかっている部分とそうでない部分が、半々になるように食べる。
すると、甘酸っぱさが肉の味に寄りかかって、懐かしい記憶を呼び起こす。
心が甘くなる。
脳が緩くなる。
日本の奥ゆかしさと中国のダイナミズムが抱き合った、こそばゆい味が、僕を正直にさせる。
山野辺君、勝手なお願いかもしれないけど、この味引き継いで下さい。
閉店