正宗中国菜の会、第二回 赤坂「涵梅舫」

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正宗中国菜の会、第二回のテーマは北京宮廷料理をいただこうということで、赤坂「涵梅舫」に結集した。

北京料理といえば、羊のしゃぶしゃぶや北京ダックが有名だが、本日は宮廷料理。

中国全土から集められ、洗練されていった集大成の料理である。

ここ「涵梅舫」は、奥深い料理知識を持つ店主張慶余さんが監督する、お値打ちの宮廷料理がいただける店である。

 

まずは、人参を精巧に彫らった琵琶を背負う天女と小鳥たちが出迎え、感嘆の声が上がる。

続いて出されたのが、「宮廷風五種類の冷菜盛り合わせ」である。春特有の味が柔らかい十センチほどの中国産小鮒を四時間炊いたもの。

甘い香り漂う、長芋のココナッツミルク漬け。意外な相性に驚く、昆布のにんにく風味。味が不思議に染みている、せんまいのソース漬け。

酒が進む、塩漬けあひるの玉子とイカのすり身、腸詰。絶好調である。食感も食味もちがう五品が、舌を潤わせ、喉を鳴らし、胃を開く。

 

 「おおっ」。思わず一同が声を上げたのが、「特製豚ばら肉の塔姿蒸し」(四川料理)である。

艶やかな赤茶に蒸しあがった豚肉がピラミッド型に鎮座しているのだ。聞けば四角まとめた肉を味をつけて蒸し上げ、丹念に折り曲げてこの形にしたのだとか。

中国料理恐るべし。見た目の色合いと違って穏やかな味わいで、豚の脂が舌の上で甘い。ピラミッドの中に詰めた梅干菜(メイガンツァイ、青菜の古漬けを日干しにしたもの)の炒め物の素朴なおいしさと調和する。

 

次の料理もまた異形である。リスに模した桂魚がこちらを睨んでいる。

かつて皇帝が江南の地で桂魚を所望したが、生の魚をお出しするわけには行かなかったので、機転をきかせた調理師がリスの形に似せて出したところ、たいそう気に入られたといういわくのある料理である。揚げて餡かけられた桂魚は、カリッと痛快な音を立てる外側と、しっとりとやわらかい内側との食感対比が面白い料理だ。

次は東北系だろうか、クミン、唐辛子、胡麻が利いた「羊のラックイスラム風焼」。

刺激的な香りの交錯に、食欲煽られ、骨を持って一心にかじる。

 

猛々しくなった気分を収めるかのように、次はベースの上湯の品格ある滋味が光る、「鹿のアキレス腱煮込み」。

ぶりっぶりんと音を立てるかのようなコラーゲンの固まり、アキレス腱の野太い食感が愉快だ。

 

次は「アワビと白霊茸の姿煮」。

白霊茸は本来、中国の天山山脈に自生する希少種の高級きのこで、アワビ茸とも呼ばれるように、形、食感がアワビに似た茸である。つまりこの皿はアワビづくしということ。

一見どちらがアワビか分からぬが、食べてにやりという仕掛け。

 

さあ七皿目からは、特級麺点師のいる「涵梅舫」ならではの点心類だ。

一皿目は水餃子と白菜漬物入り饅頭。もっちりと歯を包み込むような皮と、よく練られた豚赤身肉の確かな食感が織り成す正統派水餃子、梅干菜、ザーサイ、白菜の漬物、豚肉を炒め合わせたもの餡にした、醗酵臭が癖になりそうな饅頭、いずれも中国の香りが漂う。

 

そして閉めは、北京ダック入り野菜ワンタン

飲んで一同唸る。最初は滋味の中から淡い酸味が漂い、次に海苔の香りとうまみが滲み出る。

なんと優しい味だろう。

はじめて食べる味なのにどこか懐かしさを感じさせる温かさがある。

聞けば張さんが子供の頃(恐らく四十年前)食べた、昔の北京の味だという。

最後の長芋とミルク麩の春巻きを食べながら、張さんの言葉を思い出し、噛み締めた。

「味のあるものは引き出す。ないものは入れる。これが中国料理の基本です」。

 

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