「濃淡」。これが揚州料理の特徴だという。
上海の北西に位置する揚州は、恵まれた作物と新鮮な魚介類の味を引き出すよう、淡く味付けた上品な料理を持ち味とする。
そんな揚州名菜に出会えるのが「秦淮春」である。
特に顕著に発揮されているのが前菜で、空豆の甘み、唐辛子の辛味、ザーサイの塩気、トマトの酸味が穏やかに調和した「空豆の冷製、春トマト添え」、極細切りにした豆腐干の淡味を、細切り香腸の旨味と香菜の香りが引き立てる「押豆腐の細切り、香菜風味合え」、脂が甘く舌の上で溶ける「金華ハムのおこげ」など、揚州料理の面目躍如たる皿がある。
お昼に用意されるのは、そんな揚州料理と上海料理か広東料理の皿を組み合わせた、「桂花もくせい」と「玖瑰はまなす」の二種類の定食だ。
ある日の「桂花」は、「塩漬け卵と豆腐の冷製」(揚州料理)と「豚レバーとにんにくの茎炒め」(上海料理)の組合せであった。 「塩漬け卵と豆腐の冷製」は、塩と泥や草木灰に漬け込んだ塩漬け卵を刻み、他の調味量は一切使わずに、つぶした豆腐と混ぜ合わせたシンプルな料理である。
卵の練れた塩気が豆腐の淡いうまみを引き立て、ねっとりとした黄身の食感とはかない豆腐の食感を際立たせている。吟味された豆腐と塩漬け卵の質と量のバランスによって、素材のうまみを素直に出し、「濃淡」を感じさせるのだ。 さらには添えられるスープ、すっきりとした甘さで爽やかさを呼ぶ、デザートのサンザシスープに至るまで濃淡は貫かれ、繊細でやさしい味付けゆえにかえって素材の豊かさを感じ、穏やかな気分を運んでくれるのである。