つきだしは、「かつ煮」だった。
ポテトサラダを頼めば、王道のマヨが効いたやつがたっぷりと盛られている。
イカのワタ和えもあれば、ニラレバや粗挽きウィンナー、ソース焼きそばもある。
お父さんが料理を作り、お母さんが運び、息子が酒の準備をする。
家族だけで切り盛りし、当然価格も安い。
典型的な大衆居酒屋なのであった。
ちなみにお料理のおすすめは、イカワタ和えと唐揚げです。
しかし日本酒好きなら、店内に置かれた酒のケースを見れば、驚愕するに違いない。
新政のラストラピスウィはじめとして、希少な酒がずらりと並んでいるではないか。
この日飲んだ酒は画像を見て欲しいが、最も驚かされたのは、大七の本醸造である。
燗酒をお任せで頼むと、店主がいくつか出してくれたのだが、この大七が一番うまかった。
米の味わいが丸く深く出ていて、体をもみほぐす。
ふと見ると「13年」とある。
「9年前の酒かあ。もうすぐで古酒ですね」と、聞けば、とんでもない。
昭和13年の酒だという。
戦時中ではないか。
しかしその大七は、古酒特有のひね香はわずかで、まろやかに熟成されている。
燗酒にこれを出すなんて恐ろしい店である。
だが、大衆居酒屋である。
近隣のサラリーマンで席は埋まっているが、誰も日本酒を頼んではいない。
ビールか酎ハイである。
おそらくなんども来ているのだろうが、これほど日本酒揃えが素晴らしいとは、知らないのだろう。
いや日本酒通にも知られていないのではないか。
東神田「むさし乃」にて