東京とんかつ会議54 赤坂 「かつの玄琢」 ろーすかつ定食1400円

とんかつ会議 ,

東京とんかつ会議54
赤坂 「かつの玄琢」 ろーすかつ定食1400円
<肉2、衣3、油3、キャベツ2、ソース2、御飯2、新香2、味噌汁2、特記なし計18点

カウンター10席。小体な店を老夫婦二人で切り盛る、昭和の風情が漂うとんかつ屋である。近隣のサラリーマンにファンが多く、人気は300gの厚切りろーすかつ(1700円)である。たしかに300gでこの値段は、大変お値打ちではないだろうか。
十年ほど前に初めて訪れたときも、大多数のお客さんが食べている厚切りカツにつられて頼めば、堂々たるお姿であった。後日裏を返した時は、昼過ぎでお客さんがいなかった。そこで「やはりこの店のお奨めは、厚切りカツですか?」と聞いてみた。するとご主人は、「ええ、人気なのは、一六カツ(当時は1600円だった)と皆さんが呼んでくださる厚切りですが、とんかつとして衣と肉とのバランスがいいのは、その下のろーすかつです。是非召し上がってみてください」といわれた。なんと誠実な受け答えだろう。ボクはお奨めに従ってろーすかつを頼み、ご主人がおっしゃる意味の幸せをかみしめた。
今回も、他のお客さんはみな「厚切りかつ」を頼んでいたが、やはりここは「ろーすかつ」(150g)である。頼むとご主人は肉を取り出し、包丁の切っ先で筋切りをし、塩こしょうした後衣につけて、高温気味の油で揚げていく。
途中、幅の狭い脂身の多い部分だけを油の中に残し、幅の広い部分は鍋に立てかけて顔を出させる。これは油切れをよくさせるのと同時に、火の通りにくい脂身部分(正確にいえば、その下の筋の部分も)に充分火を通すためなのであろう。15秒ほどしてから上げて、切る。
断面はぬれて、中心をほんのりピンク色に染めている。食べればしっとり肉汁が滲み出て、脂もほのかに甘い。細かい衣は肉に密着して、カリリといい音を立て、油切れもすこぶるいい。ただこの価格ではしかたないが、他店に比べればやや肉に甘みが足りない。また余熱で火が入り、終盤は少しぱさつくので、ソースなどで補足するといいだろう。
一方、先ほどの一手間で、幅の狭い脂身多き部分は、カリッと揚がり、ここにウースーターソースと芥子をつけて食べれば、また一つとんかつを食べる楽しみが増す。
新香はキャベツに沢庵と、やや寂しいが、味噌汁は甘めの味噌を使った、大根と豆腐、ご飯、キャベツ、ソースとも申し分ない。
ソースを聞けば、「左側がとんかつソース、右側がさらりとしたウースターソースでございます」。帰り際には、「どうもありがとう存じました。おきをつけて」と、ゆったりとした丁寧な口調の中に、心を込める。「玄豚」のご主人の言葉にもまた、古き良き昭和の誠意が宿っているのであった

 

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