ご主人は、流し缶から取り出して切り、氷水に落とされた。
器に盛り、下地を注ぎ、天にワサビを乗せる。
馴染ませ、食べやすくするためだろう。
わさびに極々少量の地をかけ、ふり柚子されて運ばれた。
「お豆の葛切りです」。
噛めば、もっちり、ぼってりと、身をよじる。
歯で噛む乱暴を避け、舌と上顎でつぶし、崩していく。
葛餅は、やがて口の中から消えていくが、無くなっていく刹那、突然豆の甘みと香りが立ち上がり、心を抱く。
ふうっ。
晩春の名残を愛おしむ気持ちが、ゆっくりと体に満ちていった。
京都「浜作」にて