金沢「片折」

春菊のすべて。

食べ歩き ,

春菊のすべてがそこにあった。
「片折」、二月の突き出しである。
朝採り春菊を。春菊豆腐と焼き春菊にしてある。
春菊豆腐を食べれば、普段は気が付かない、春菊の淡い甘みが、ゆっくりと広がっていく。
その慈愛に満ちた甘みに目を細め、焼き春菊に箸をつける。
網で焼き、地に軽く通したものである。
焼かれたことによって、春菊の香りが強まり、鼻腔をくすぐる。
香りの凛々しさと甘みの優しさ。
その対局こそ、自然が為すものである。
こうして春菊という生命が、徳田八十吉の器の中でそっと息づいていた。