「料理は事前に決めていません。朝市場に行って、出会って手に入れた食材でその日の献立を考えます」。そう、伊藤シェフは言った。
開店して一ヶ月半、「課題ばかりで、まだまだです」というが、着実に目指す料理の個性は、出来上がっている。
まず、インゲンと紫インゲンのフリットとアンチョビというアミューズに、てらいのない、素朴さを大切にしていますというメッセージが込められていて
シェフの誠実が現れる。
続いて南瓜のポタージュ。泡に振りかけた干し草の香りをつけたコーヒー豆の香りが、単調になりがちな南瓜の味にアクセントを与えている。
三皿目は、牡蠣のセロリアックソースとオゼイユオイル、レモン皮のジュ。
ノルマンディユタビーチの生産者からの直接送ってもらっているという牡蠣は、食べると生のような食感でありながら、加熱した甘みがあって、それが根セロリの優しい甘みと抱き合う。
時折刺激するオゼイユの酸味が、牡蠣のうま味をより際立てる。
聞けば、少しだけ蒸し上げて、表面だけ火を通し、食感の痛快さを出すのと同時に、味の角をとって丸くしているのだという。
続いて、「パルミジャーノとフォアグラのリゾット、ヴォージュ産セップ添え」
薄切りにしたセップと角切りにしてソテしたセップ、ポワレしたフォアグラがリゾットの上にのっている。見事なセップである。
ややもするとうますぎてしまうリゾットに、対照的な茸の味わいを加えることによって調和を取り、さらにマジョレーヌの葉の香りと刺激が、味わいを密かに引き締めているのが、心憎い。
そして平目、続く鳩も素晴らしいながら、本日の主役である(詳細は前の投稿を見てね)。
メスケールから届けられたという鳩は、干し草とともにロティされて登場する。
精妙な加熱のラングスティーヌと、ラングスティーヌの殻からとったソースと鳩のジュを合わせたソース、ガルニは、ジュラのサヴァニャンソースをかけたジャガイモである。
凛々しい鳩肉の鉄分に、ラングスティーヌのうま味が加わったソースが色気を帯びてしなだれかかる。
噛むごとに、飲み込むごとに、生産者の取り組みや情熱を活かし、昇華させたいという、素直な想いが伝わってくる。
ただそれだけである。だがそれだけが心を打つのである。
Restaurant L’ARCHESTE @Paris