「手紙と料理は通じるものがあると思っています。自分を常に戒めるためにもこれを店名にしようと思いました」。
「手紙」の店主廣岡雅志氏は、そう言われて、口元を絞められた。
相手を敬い、自分の思いを届ける文を書くことは、料理とも似ている。
ただし、大袈裟な言葉や、形容詞を連ねては、思いは伝わらない。
実直に、誠実に向き合い。文をしたためる。
その姿勢は、料理と重なる。
地元の食材に敬意を払い、心に届く料理に仕上げていく。
たとえば「香箱蟹の焼売」である。
底に外子を配し、カニ脚を極少量の甘海老でまとめたものを主体にし、上から内子の醤油ダレ漬をかける。
食べれば、メスガニの柔らかな甘みが広がって、心がほぐれ、その陰から内子の濃密な甘みと外子の食感が現れる。
小さいながら、メスガニの魅力が凝縮されていた。
蟹に酔った後は、椀物である。
新発田市の花である、菖蒲が描かれた蓋を開けると、半月の大根が一つ、鎮座していた。
噛めば、歯が大根の中に沈んでいく。
静かな滋味が、ゆるりと染み出す。
つゆの加減は、出汁が濃くない。
優しさの中に、庶民的な風情がある。
聞けば、塩引鮭と野菜の端材でとった、雑煮の出汁だという。
なにかこう、心の糸が緩んでいく味わいである。
そのあと、穴熊も出された。
昆布と醤油でサッと炊いたのだという。
鉄分を感じさせる猪といった味わいで、脂も肉も締まっている。
のんびりとしているように見えるが、実はアスリートなのだろう。
噛み締める喜びがある。
蟹、大根、穴熊。
他の食材も含めて、真冬の新発田は凛々しさがを秘めていた。
新発田「手紙」にて。
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