恋人に会いに来た。
田中シェフが作る、スパゲッティサルサポモドーロである。
この恋人には、6月から8月末までの,3ヶ月間しか会えない。
美瑛内山農園の、湯むきした完熟トマトを、12分間フライパンつきっきりで、木べらで崩しながら、寸前に作られる。
「作り置きすると、甘味は出るかもしれませんが、酸味が消えてしまう」。
食べた瞬間、丸い酸味が口に広がり、うま味が追いかける。
夏に向けて蓄えてきた酸味は、たくましい。
食べているのはトマトだが,太陽を食べている気分になっていく。
その慈愛に満ちた味は、いつまでも口にどどまり、余韻が長い。
やがて消えていくが、残るのは恋である。
またサルサポモドーロに会いたいと熱望する、恋である。
しかし来年まで食べられないかと思うと悲しい。
切ないので、さらに恋心は膨らむのである。
札幌「セミーナ」にて