店に入ると。老主人が一人で奮闘していた。
カウンターと小上がり合わせて12席くらいだろうか、常に満席で、次から次とやって来る客を相手にしている。
炒める、揚げる、切る、盛り付ける。ご飯をよそい、味噌汁を注ぎ、水を出す。七種類あるメニューを、皆が様々に頼む。
席に座っていると、若い女性二人連れが扉を開けた。
「空いてますか?」
「こちらにどうぞ。時間かかるけどいいかな?」と、カンターの隅の席を勧めた。
「どれくらい時間かかります?」 二人連れが聞く。
「そんなことわかんないよ。お客さんが食べる時間だからねえ」。
好きだなあ。この受け答え。
この状況でこんなことを想像できずに聞く客が野暮なのである。
二人連れは、それでもめげずに、「すいません。カキフライとメンチカツセット二つ」と、頼んだ。すかさずご主人が制した。
「すいません。ちょっと待って」。
こういう店には不文律がある。
1・座ってもご主人に「何にしますか?」と聞かれるまで注文しない。
2・食べ終わってもすぐに勘定しようとしない。ご主人の手が空いた瞬間を見計らって、立ち上がり、勘定をする。
3・お釣りがないようにする。
店は常連ばかりで、皆同じようにしていた。
効率を考えれば、すべてが正しく、他の客に対しての思いやりがある。
錦糸町「キッチン浜家」