失礼ながらお料理上手ですね

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「失礼ながら、お料理上手ですね」。
よく知らずに、大変失礼なことを言ってしまった。
ここは、高知のやや寂れた街にある、魚屋である。
「魚屋の店先で魚料理が食べられる」。そんな噂を聞いてやってきた。
店は、どこにでもあるような魚屋で、店頭ではガラスケースに収まった魚が並べられている。そしてその前に粗末なテーブルが置かれ、黒塗りのお膳が置かれていた。
立ち食いである。
「ははあ。ここで魚を決めて、刺身や煮つけにしてもらうんだな」。
魚屋が定食屋を併設している。
立ち食いということをのぞけば、高知では割とあるスタイルである。
「魚を指定してもらってもいいですし、定食もあります」。
「定食はどんなのですか?」
「はい5品ほどついて、あとは吸い物とご飯で、八百円です」
「では定食を」。
ところが。
出てくる料理がすべて、品がある。
あたりがピタリと決まって、食材を見事に生かしている。
どれも一捻り二捻りの独創がありながら、やりすぎていない。
「ウルメイワシのおからずし」。「塩麹漬け酢洗い鮎の寿司」。「赤魚のすまし汁」。「りゅうきゅうとウルメイワシの酢の物」。「とうもろこしのかき揚げ」。「まぐろ漬けと葉わさびのたたき」。「塩麹漬けウルメイワシの焼き物」。「冷やし梅茶碗蒸し」。「だし巻き卵」。「たけのことうすい豆の煮物」。
失礼ながら、料理が魚屋レベルではない。
器や盛り付けも、筋が通って、美しい。
感嘆して、つい先ほどの失礼な言葉を投げてしまった。
ところが主人は、京都のある一流割烹で何年も働き、助けで様々な一流旅館や料亭で働いた経験があった人だったのである。
「ハンパない」という言葉が流行っているが、この魚屋こそハンパない。