原宿「樋口」

坊主蒸し。

食べ歩き ,

「修行時代、賄いは時間がなく、立って素早く食べていました。多かったのが坊主蒸しかけご飯です。親方から坊主蒸し作れと命令されるので、急いで作ります。具のない茶碗蒸しですね。スが入らぬよう、また出汁と卵液の塩梅に気を配りながら仕上げたら、白飯にかけて、立ってささっと食べます、先日某中国料理店に行ったら、同じものが出てきたんですね。聞いたら香港の厨房でも、同じようなものを作って食べているという。これを出してもいいのかなという気持ちにもなって、おしのぎで出される蒸しご飯はどこでもやっていることなので、変わりおしのぎという形で出すことにしたんです」。
そう樋口さんは言われた。
炊きたての一文字ご飯に、鮎の出汁と鮎魚醤で淡く味つけた坊主蒸しに、軽く干した稚鮎と芽ネギである。
卵が優美になって、甘みが丸く深い。
そこへ炊きたてご飯が加わるのだもの、これはたまらない。