表参道「tonkatsu.jp」

「満州豚」。

幻の豚「満州豚」のトンカツを、初めていただいた。
戦時中の1942年、中国から輸送船で密かに日本へ向かった豚である。
本土決戦にそなえ、雑草やイモヅルなどで飼育できる“豚”を密輸入させたのだという。
その後細々と飼育されていたのだが、歩留まりが悪く、成体でも60〜70kg程にしか成長しないため、経済動物としては不適格で、次第に淘汰されていったという。
その純血種を復活させ飼育しているのが、静岡県富士宮市の富士農場の獣医の桑原先生である。
すでに満州豚とデュロックの交雑種を「セレ豚」として飼育、販売しているが、原種は極めて珍しく、中国でも出会えぬという。
生きている姿を見ると、真っ黒の長い体毛で覆われており、猪のようである。
そのロースは半分が背脂で、肉は色が赤目で濃い。
下の写真がサドルバックのロースだが(リブロースより)、まったく違うのがわかるだろう。
揚げられたカツを食べた。
真ん中あたりをまず、脂の方から何もつけずに食べてみた。
ああ。
口を開けた瞬間に脂の甘い香りが漂って、脂はしまっているのに、噛んだ瞬間からするりと消えてしまう。
後に残るは優美な甘い余韻だけである。
なんと官能的な脂であろうか。
今度は肉の部分である。
おおこれは、逆に凛々しい。
肉質が緊密で、顎にぐっと力を入れなくては噛みきれない。
なんどもなんども咀嚼しなくては、消えていかない。
だが噛んでいるうちに味が、ぐんぐんと湧き出してきて、口の中を埋め尽くす。
「私味が濃いです」という、豚である。
この儚く消えていく脂と、勇猛な肉質の対比がたまらない。
その後塩をかければ、甘みがさらに増し、ソースをかけても負けることなき個性をみせる。
壮絶な豚である。