博多「安兵衛」 博多おでんはたまらんばい。博多満腹紀行2

食べ歩き ,

春吉を離れ、路地を縫う。
「まだライブまでは小一時間」。
西中洲のおでん屋「安兵衛」に向かうことにした。
暖簾をくぐれば客はなし。
よし今夜は、鍋前の特等席に座らせてもらおう。
使い古された鍋に、黒い汁がなみなみと張られている。
赤銅鍋から、ふわりと湯気が流れて顔を包んだ。
大根が、キャベツ巻きが、コンニャクが、厚揚げが
「あ~あ、いい湯だなあ」。 と、手足を伸ばしている。
早く食べてやらねば。
まずは大根である。
真っ黒黒助であるが、
東京のどこかのように、醤油の味で煮しめましたとは事情が違う。
噛めば、おおらかな甘みが流れ出て、アッハッハーとほほの内側を笑わせるのだよ。
醤油の香りとうまみは、縁の下で支えているのだよ。 コンニャクは、近所のスーパーで買う腑抜けと違って、歯と歯との間で根性を見せる。
大和芋とは掻き揚げだ。
干し海老やごぼう、人参の香りを、芋の甘みが滑らかにつないでいる。
「ちきしょう」。 ぬる燗をもう一本。
厚揚げは、豆の甘みがふくよかで、つくねは穴子ときた。
「秋冬はいわしで作るんですが、今の時期は脂がのってませんでしょ。だから穴子で作ります」。
うれしいじゃありませんか。
舌の上で、穴子の滋味がホロホロッと崩れてゆく。
酒も私も欣喜雀躍でゴザイマス。ハイ。
えーい、キャベツ巻きも頼んでやる。 おお、これは、実に穏やか。平穏無事。
鶏肉と玉ねぎの甘みが、とろとろキャベツに包まれて、なんとも幸せな光景である。
はんぺん、ちくわも筍も頼んじゃえ。
おや、はんぺんを取り出したら卵も底から出現。
当然、いくでしょう。
ごらんのようにこちらのたまご。
殻つきのまま全身浴。
食べればしっとりとして、水分が抜けていない。
よくあるような、黄身がぽそぽそではない。
聞けば生のまま火を通し、店終了後にじっくりじっくり冷ましながら味を煮しめていくのだという。
さあそろそろ終いにしよう。
閉めは、はなから決めていた。
「茶飯」である。

しかしそこには予想外の展開が待っていたのでさる

以下次号。