静かで素朴な味は、ゆっくりと舌に溶けていった。
外気で冷えた身体と心を、優しく温める。
次に命を託そうとする銀杏の命が、口の中でそっと芽生えた。
続いての小鉢の蓋を開ければ、蟹の甘い香りが顔を包む。
加能蟹の飯蒸しである。
芹を添えたそれを、よくよく混ぜて口に運ぶ。
冬に向かう、冷たい海の滋養が、ほんのりと落ちる。
そのありがたみに、ふっと口元が緩んだ。
続いては、椀物である。
蓋を少し開け、湯気を嗅ぐ。
ゆずが香り、出汁が香り、その後から蟹の豊かな香りが揺らいだ。
ふう。
まだ飲んでもいないのに、心が弛緩する。
加能蟹しんじょうのお椀だった、
蟹と白身魚に浮き粉を少し加えたしんじょうは、ギリギリの柔らかさで固まっている。
それゆえに、箸で口に運んだ途端に、はらはらと舞い散っていく。
柔らかき蟹の肉を、喰む。
噛んではいけないような、切なさがそこにあって、優美な甘みに、喉を濡らす。
師匠同様、見事なお椀である。
締めの強肴の前は、里芋団子だった、
小松菜を添え、団子の中には加賀蓮根が射込んである。
ぽってりとした、いい意味での野暮ったい里芋が、口腔内の軟膜を舐めまわし、蓮根がシャキッと弾んで、甘みを滴らす。
「うまいなあ」。
思わず言葉が口をついた。
それはこれからますます力をつけ、おいしくなっていくであろう里芋の勢いが、心を突いて出た言葉だった。
金沢「木佐貫」にて。







