〜起鍋酢の巧みと燕皮の不思議の巻〜

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前号から〜起鍋酢の巧みと燕皮の不思議の巻〜
詩人でもある料理人の呉氏は言う。
「酒と醤油は大事。煮料理で特に大切で深く深くおいしい部屋になっていくが、最後に少しだけお酢を入れると窓が出来て、光が射し込むのです」。
そうして出来上がった料理が、イシモチと豆腐の煮込みである。
「昔の料理人は、海鮮料理を作る最後に必ず少量のお酢を入れた。それを『起鍋酢』といいました。今日もこっそりいれましたよ」。
うま味のあるイシモチの味を豆腐が受け止め、箸が止らない。
たっぷり入ったニンニクは、芋のように崩れて甘く、笑みを呼ぶ。
「味のあるイシモチは、豆腐とよく合います。諺に「千滾豆腐,萬滾魚〜魚と豆腐は、ぐるぐる巡り回る」という言葉があるように、とても相性がいいのです」。
続いてはシンディが作った湖南のタロイモ料理である。
食べればどこまでも優しく甘い。ただ甘いだけでなく、食欲を鼓舞してくる味が潜んでいる。
背脂でラードを作り、搾菜とラードの油かすを細かく切りタロイモと一緒にして蒸す。さらに豚肉を蒸し細かく切る。これらに鳥のスープを入れて蒸し、最後に軽く戻した春雨を入れ、葱の微塵を入れるるという手間のかかった料理である。
ムースのような芋の食感の中から、様々な小さい食材が現れるところも素晴らしい。
鶏もも肉と二種類の香腸による蒸し物は、醤油と酒、片栗粉で下味つけた鶏肉を切り、香腸と交互に並べて蒸したものだが、一口で笑い出したくなる痛快な味である。
そしてこの蒸し汁と主に御飯に載せれば、むむ、たまりません。
「辛いわよ」と言って出されたシンディちゃんの炒め物は、燻製豚肉の厚切りと唐辛子と葱、にんにくの葉、八角の炒めもの。ああ、料理が酒を呼ぶ。
おや焼売かと思ってみれば、どうやら違う。呉氏が作った「肉椿丸」と言う料理である
半透明な皮は、なんと小麦粉ではなく肉燕皮という肉から作ったのだという。
豚赤身肉を叩きに叩き、少しだけ片栗粉を入れてさらに叩いて薄い皮状にしたもので肉の餡を包んである。
なんたる手間だろう。しかしその手間のおかげで、口に運べば肉、肉、肉と津波のように味わいが押し寄せるのである。
さて後二つ手羽先をぶった切って、生唐辛子とニンニク、葱と醤油、酒で炒めあわせた「辣子雛丁」。
長方形の細い餅と青菜と豚肉を炒めた、後を引く料理。
自家製チュウニャンと桂花による胡麻団子のデザートと宴は続いた。
ありがとう! シンディちゃん、呉先生、一生この夜は忘れません。