また、寂しいお別れがあった。
いい居酒屋が乏しい中野では、唯一真っ当な魚を食べさせる店だった。
お父さんの頃から通っていて、値段は中野にしては高いが、魚を食べれば納得した。
若い頃はそんな金がなく、安いアジやイワシを頼み、隣のおじさんたちが、コチやヒラメを食べるのを、羨ましそうに見ながら酒を飲み、おでんでお腹を満たした。
ヒラメやコチを食べられるおじさんになっても、ここは中野で唯一人を連れて行ける店だった。
太田和彦さんが見つけて紹介されたのを、自分のことのように嬉しかったのを覚えている。
お父さんから店を受け継いだご主人は、60くらいたと思うが、体調を崩されたのだろうか。
とにかく、中野ではもう飲む店は無くなった。
さようなら。ありがとう。
私の方こそ、感謝しかありません。