つたない味には、はかなさがある。
成熟していない、青い味がいる。
モラトリアム手前の、初々しい味がある。
大人のミソは、舌を圧倒し、ううむとうならせるがこれは違う。
ミソはミソたる甘みを宿しながらも、淡く、食べてはいけないような清純を滲ませる。
だから心がほだされる。
体に張り詰めて糸が緩み、落ちていく。
殻も身も柔らかく、身を噛み締めれば、穏やかな甘みが、そっと顔を出す。
盛りの炎を迎える手前の蛍火が、命の尊さを伝えくる。
赤ちゃんの上海蟹である。
新イカやシンコとおなじ、子供の切なさを持った味である。
最後の脱皮を行った直後の上海蟹で、六月小公黄とか六月黄と呼ぶ。
上海蟹と言えば10月の国慶節以降出荷が始まるが、旧暦の6月(太陽暦7月)のみに流通する、希少な蟹だという。
「これから大人になってますます肥えて、脂を身につけて濃厚になり、人々を魅了するのね」。
でもその前にいただいてしまった。
そこには、禁断という調味料も加わり、僕らををコーフンさせ、上気させるのであった。