伊勢海老のすべてがそこにあった。

食べ歩き ,

優しさもたくましさも、命の厳しさも暖かさも。
伊勢海老のすべてがそこにあった。
大阪 千里山「柏屋」の「伊勢海老軟蒸」である。
伊勢海老というのは、火を通すと硬くなる。さらに火を通せば、パサパサとなる。
だがそこからさらに加熱すると、柔らかくなっていく。それを利用した料理である。
伊勢海老の殻や脚から出汁をとり、そこに伊勢海老の胴体を入れて2時間ほどじっくり蒸し上げる。
そのまま一晩寝かせた後、出す前に50度の湯煎にかけて温める。
噛めば、熱々の伊勢海老はふわりと崩れて、口の中を舞い、淡く品のある甘みを落とす。
その時である。
濃厚なる海老の味がじわりと顔を出す。
じわじわり。
海の豊饒が口の中に溢れていく。
添えられた小蕪は、そんな伊勢海老の濃密をいなすかのように穏やかで、
口に含めば再び伊勢海老が恋しくなる。
「雲龍焼 焼き雲丹含め煮 」や「甘鯛海老塩辛漬焼き」、「和牛低温蒸し実山椒ペースト」などと並ぶ「柏屋」のスペシャリテは、未来の日本料理を見据えている。