「おいしいものばかり食べて羨ましい」。
確かにそうだ。
おいしいものばかりを食べている。
だが僕にもストレスがある。
先々まで予定が埋まっているので、今日はそばの気分だな、中華だな、焼き鳥だな、あるいはうなぎが食べたい、イタリアンが食べたいと思っても、すでに予定があるので、叶わない。
また、コースではないアラカルト中心のレストランに行っても束縛がある。
メニューを開いて、「ああこれが食べたい」と思っても、頼むわけにいかない。
その店の個性が出ているもの、シェフが食べさせたいとメッセージを送っているもの、他店にはないものをオーダーして、食べなくてはいけないという宿命があるからである。
一度でいいから、夜の予定がまったくなく、自分の欲望と相談して店を決め、食べたいものや、好きなものをかたっぱしから頼みたいと、思う。
今夜がそれが叶った。
高知での取材が昼過ぎに終わり、夜はフリーである。
さあ何を食べようか。
一瞬今まで行ったことのない店を思い浮かべるという職業意識が湧いたが、却下した。
今夜は本能の赴くままに店を決め、食べよう。
高知市内の日曜日なので選択肢は限られる、
昨日まで和食ばかりだったので、ワインが飲みたかった。
市内で日曜営業で、気軽に行ける、コースではない洋食で考えた。
イタリアンは、「トロドーロ」、「アミーゴ」、「モンテ」、「ビベール」といったところである。
フレンチでアラカルトなら、「ブラッスリー一柳」、「モンキュイジーヌ」、という選択になる。
悩んだ挙句、「ブラッスリー一柳」にした。
テリーヌやグラタン、スープガルビイユなどがおいしい店である。
一人で出かけ、珍しくキールを飲みながら、食欲と相談する。
決まった。
前菜に「野菜のエチュベ」、「自家製ハム」、「羊のソーセージ」「和牛のステックアッシュ」である。
「野菜のエチュベ」は、さやインゲンとオクラが力強く香りが高い。
そして「自家製ハム」は塩加減が優しく、脂と脂したのコラーゲンがうまい。
「羊のソーセージ」は、「メルゲーズですか?」と、シェフに尋ねると、「だいぶおとなしくさせています」と、微笑まれた。
しかしどうして、コリアンダーやニンニク、唐辛子は弱いものの、羊の香りに満ちて、赤ワインが進む。
続いて「ステックアッシュ」ときた。
脂分に頼らない、赤身肉の滋味だけで構成したステックアッシュは、赤ワインが猛烈に恋しくなる。
スペインのガルナッチャをぐいぐい飲みながら、ステックアッシュを頬張る。
ああ楽しい。
すべて食べ終わっても収まりがつかず、チーズの盛り合わせを頼みアメリカのアメリカらしくないピノと合わせ、じっくりと楽しんだ。
いやあ、食べたいものを食べるって、素敵だなあ。