シャクッシャクッ。
細い人参の歯ごたえを、探すように噛んでいく。
暗闇の中で光明の手がかりをつかむように、静かに口を動かしていく。
すると人参の甘い香りがたっぷりと湧き出でて、穏やかな気分になった。
一見、素朴な人参炒めのようだが、恐ろしく手間がかる料理である、人参20本を、低温の油の中でゆっくりと加熱して、人参油を作る。
一方生の人参を細く、同寸に切り、北京大根の漬物と筍は、人参より細く、同寸に切る。
そこへ香菜の軸と、人参、大根、筍を合わせ、先の人参油で炒める。
炒めるといっても、強火でカロチンを壊さぬよう、極弱火で、和えるように火を通していく。
かくして生のようで生ではなく、炒めてあるようで炒めてはなく、人参の香りに満ち満ちた、妙なる食感の料理が出来上がる。
食べれば、人参は、土臭さから脱却して、優美な笑顔を見せ、優しい香りを破裂させる。
食べていくと、まるで自分の汚さを見透かされているような感覚に陥るほど美しい。
これこそが、西太后が愛した優美なのである。
人参
アフガニスタン原産とされる、セリ科ニンジン属の根や葉を食用とする野菜。一般的にはオランダなどで改良された西洋系人参と、中国から伝来して改良された金時人参などの東洋系人参がある。栄養面ではカロテン含有量がずば抜けて多い。通年で回るが、旬は秋から冬で、その時期が最も甘みや栄養分が濃い。
国内生産は北海道、千葉、徳島が主流。北海道と千葉で半分近くを作っている。