京都喜幸<京都の平生>

食べ歩き ,

  • 喜幸・はや塩焼き

  • 喜幸・ごりわかさぎ煮つけ

  • 喜幸・お揚げ

京都四条大橋たもとの東華菜館の脇をひょいと入ると西石垣通という路地が南に延びて、「近喜」というおいしい豆腐屋がある。

 その先を右に曲がったとこにあるのが、「喜幸」だ。路地にしっとりとなじんで店はある。喜幸は我々よそもんもたまには訪れるが、カウンターを占める客の大筋は地元の常連客だ。

 店を切り盛りするのは、家族四人。板場は親父さんと奥さん。サービスはおばあちゃんと上戸彩を細面にしたような娘さんである。
 
 本日の突き出しは、「てっぱい」(ぬた)か「青豆豆腐」。
「豆腐でよろしいか」と親父さんが聞くので、「はいお願いします」従った。

 近喜の青豆豆腐を口に含むと、ふわりと滑らかに崩れて、、青く甘い豆の香りが鼻にゆっくり抜けていく。豆腐の香りを肴に、ぬる燗を流し込んで目を閉じた。

 さあ今日は何を食べようかと、手書きの品書きと相談した。
ここの店の売り物は、川魚である。旬の川魚を巧みに生かして、料理する

 「今日の白焼きはなんですか」と聞けば、ハヤだという。「白焼きひとつ」と、だんなさんが声を上げると、奥さんが水槽からあげて焼きはじめた。

 やがて運ばれた皿のハヤは、独特の愛嬌ある顔を見せながら、律儀に整列している。たまらず手でつかんで食べる。

 焼き目が香ばしく、ほろ苦味と優しい甘みが広がって、草の香りが漂った。目を閉じれば、清流の香りと太陽の日差しが体の周りを回っている。

 ウマい。酒が進む。献滴に変えてもう一本。今度は、隣の客が頼んだ煮付けに目を奪われ、注文すれば、
 「ゴリにワカサギの稚魚も盛り合わせておいたから」とご主人自ら運んでくれた。

 いずれも小さな身ながらも、煮付けのしっかりとした甘辛い味から、幼い苦味や甘みがにじみでる。時間がゆっくりと動き出す。

 「万願寺唐辛子お願いします」。
 「赤いのも一緒に焼きましょか」。
 完熟した赤い万願寺は、赤ピーマンに似て、みずみずしく、甘みと酸味に満ちている。
あとはそうだ。お酒をもう一本。いやもう二本。鮎の南蛮漬けと薄揚げもお願いしよう

2005.11