中国粥2004

食べ歩き ,

横浜・安記
 粥というと日本では病人食のイメージだが、中国では頻繁に朝食に食べる日常食。朝の胃を整え、健やかにし、精をつけるための食事である。中国宋代の詩人陸遊は、入念に作ったお粥を食べると寿命が延びるといい、また蘇東坡は、夜に食べるのを好んだそうで、その味は妙なる言葉では表現できないとしている。今回は静かに増殖しつつある、そんな中国粥のいまを紹介。
 創業昭和七年より、中国粥の店として有名。用意される中華粥は、貝柱、骨付き鳥肉、サザエなど九種類。水から米を数時間炊き、一晩寝かせて翌日スープと合わせたお粥は、米粒が・ほどになり、花が咲いたような状態。濃度がついた白い汁と米粒の柔らかさが変わらず、とろんと口の中で広がる。口に含んでいると、米のやさしい甘みとスープの滋味が溶け合って、ゆっくりと舌を過ぎ、のど元に落ちていく。心静まる穏やかな味わいだ。おすすめは、「什景粥」七百五十円。ていねいな下処理によって臭みがなく、クニャリとした歯触りが魅力的な牛胃袋、新鮮な鳥レバー、豚挽き肉団子の三種が入ったお粥で、それぞれの具の歯触りや味わいが楽しい。好みで鳥肉や油條を追加したり、生玉子を落としてもらったりするのもいいだろう。下味をつけた生のイカ、エビ、サザエ入りの「三鮮粥」八百円も人気。


青山・糖朝
 香港の人気店。その豊富なデザート目当てに、時間時には列ができる。中国粥も充実。「豚レバー入り」七百円、「真鯛(刺身とアサツキ)入り」八百円、「魚団子と豚肉団子入り」七百円、塩味を利かせた「ホタテ入り」九百円、エビとホタテ、魚と豚肉の団子入り「五目粥」八百円、「アワビ入り」千八百円、「エビ、燕の巣、アワビ入り」二千円など十四種類がラインナップ。
 量は少なめながら誠実な仕事ぶりがうかがえる粥は、ポタージュ状に煮崩れた米の甘みとスープのやさしい旨味が溶け合っていて、一口すするたびに癒されるよう。おすすめは、「絹笠茸とコーン入りのお粥」七百円。シコッとした歯触りをもつ絹笠茸とコーン、それに肉厚で噛むとエキスがにじみ出る椎茸の三者の食感の妙が見事。少量ながら味のアクセントとなっている、生姜とアサツキ、粥に忍ばせた髪菜など、細かく入念な仕事ぶりが香港そのもの。


赤坂・璃宮
 料理長譚彦彬氏による。数々の広東名菜に出会える店璃宮もまた、すぐれた粥が揃っている。粥は「アワビ粥」二千六百円、「海鮮粥」、「牛肉薄切り粥」、「ピータンと豚肉粥」いずれも千六百円の四種類。米の花が開いてとろりとポタージュ状になったお粥は、ほんのり生姜が効いていて米の甘みが素直に出た、舌に体にやさしき味わい。おすすめはピータンと豚。とろりと溶けかかったピータンとのコクと塩分、細切り塩豚の甘みと塩分が粥に独特の風味を加えて、クセになる。ワンタンの皮、香菜、極微塵のネギ、ザーサイが添えられるので、好みで随時トッピングを。量も多く、最後まで冷えない。まさに「人にお粥を待たせてはいけないが、お粥に人を待たせてはいけない」という中国の言葉通り、熱々を食べるおいしさがある。メニューにはないが、「干し貝柱と鳥肉の粥」、「スペアリブ粥」(事前に確認)も美味。おみやげ用に、六百円からのレトルトパックも各種あり。


六本木・香ゆ樹
 福建省出身のオーナーによる中国粥専門店。スープが多目でさらりとした福建スタイルの中国粥。十数種の海産物から取ったというスープは、うまみが濃く、スープに米の入った雑炊風粥でもある。主体のコシヒカリにアワ、キビ、赤米など八種の穀類を混ぜ合わせてあり、よくよく口の中で味わうと、深みがにじみでる。おすすめは、塩気が粥の見事なアクセントとなる「鴨の塩卵粥」六八百円。またはそれに煮玉子とピータンを加えた「三種卵粥」。プルルンとした口触りのワンタンを加えた「福建ワンタン粥」七百五十円。半生に日の入った切り身が甘い「鯛の刺身粥」九百円もいい。ちぎって入れれば香りがよいアクセントになる定番の油條(中国パン)三百円、八角の香りが効いたチャーシュー、醤油風味の炒めレタスなどトッピングも豊富。最初はお粥だけを味わい、胡椒や胡麻油を足して変化を楽しむのもよい。

神保町・番町粥麺専家
 中国粥と香港麺専門の日本初のファーストフード店。ややスープの多い雑炊スタイルの粥。鶏ガラの淡い淡い味がにじみ出たスープに米の甘さがほんのり漂う味わいで、フアーストフード店ながら、味に押し付けがましさがないのが好印象。いっぱいでは腹が膨れぬほどの量だが、百八十円という安さは見事。白粥に好みで百円のピータン、塩鶏、高菜あんなどを加えて楽しもう。朝七時からやっているのもポイント。おすすめは、青菜の微塵とクコの実を散らした「野菜粥」二百八十円。


木場 謝朋殿 粥餐庁 5857-2160
下町の新しいカルチャースポット、深川ギャザリアにある中国粥専門店。まずは五穀粥、コーン粥、玄米小豆粥の三種のベースを選ぶ。いずれも白米とは違う滋味に富む。トッピングは創意工夫が光る品々で、シンプルな「四川ザーサイ三つ葉粥」、「香菜入り青島ピータンと松の実粥」各650円、野菜の甘みが舌に優しい、「栗かぼちゃ、サツマイモ、蒸し鶏の卵とじ粥」780円、海苔の香りで食欲が進む「岩海苔海鮮粥」880円、しっかりと食べたい向きには、「煮込み肉団子粥」820円や、ほろりと煮込まれた「豚角煮粥」880円などがおすすめ。


銀座・藜花
 中国薬膳を主体とした料理を出す店。粥は薬膳を前面に押し出した品書きはないが、薬効を感じさせる味わいを秘めている。例えば定番の「塩豚とピータンのお粥」千円。お米の姿がすでに見えないほどとろとろに炊かれたお粥は、まさにお甘みを宿した米のポタージュ。その中よりスープの滋味がにじみ出て体に染み渡る。塩豚もピータンも胃に負担がかからぬよう、細やかに切られて入っており、舌の上で時折その塩気を感じる。あとは、添えられたワンタンの皮やネギ、ザーサイを入れこんで、無垢なお粥に移る香りの変化を楽しむべし。


成城学園 桂花
 地元の人に愛される中国料理店。一般的な中華料理もそろえているが、牛ほほ肉とりんごの赤ワイン煮といったセンスが光る独創料理や湯葉やすっぽんを駆使した薬膳料理、各種点心と豊富なメニューが楽しめる。粥は四種類。「ミートボール入り」千二百円、「海の幸入り」千二百円、「クコとほうれん草入り」千四百円、そしておすすめが「にらとクコの実入り薬膳粥」千二百円。雑炊風にスープが多い粥で、鳥や干し貝柱の滋味がにじみ出た上等なスープにて、三分の一ほどになるまで米が炊かれ、玉子でふわりと閉じてある。さらさらと口に運べば、上質なうまみが米や玉子の甘みとともに広がり、時折にらが香ってアクセントをつける。しかし味わいは淡く上品なため、どんなに料理で満腹になっていようとも、するすると胃袋に収まってしまうのは必至。もちろん単体で楽しんでも充足できうる。