一年ぶりの荻窪「有いち」である。
以前に訪れたのは、震災後の3月15日。
閑散とする都心の飲食店と違い、満席だった。
かんぬきや香箱、まながつおが素晴らしかったことを思い出す。
最初の皿は湯葉汁。
ここではまず初めに、小さな椀が出される。
淡い味わいに整えられた液体は、舌を伸ばし、喉を開き、胃袋を目覚めさせる。
そしてこれから訪れるであろう幸福を、予感させる
白子豆腐、知多半島の天然トラフグ刺身と続き、
〆サバ、ヒラメ、巻海老の刺身と連なる辺りで、鷹勇から大七の上燗に変える。
そして次がこの店の真骨頂である盛り込みだ。
岩海苔とサザエの肝あえ、雲丹、こごみ胡桃和え、赤貝と山ウド切三つ葉のぬた、スミイカ唐墨焼き、帆立入り出汁巻、紅白なます、鯖寿司、
蕗と才巻、早筍の炊き合わせと子持ち昆布、きんかん。
どれも質が素晴らしく高く、仕事がきちんとなされている。
例えばふつうは彩の意味合いしかない才巻海老も、数十分前に茹でられているので、甘く、しなやかで、香りがある。
酒がいくらでも飲める。
「正月が来ちゃったみたい」と喜ぶと、ご主人考太郎が、子供のような笑顔を見せた。
二十歳の頃から知ってるが、感がよく、頭が切れる、出来た料理人だ。
そしてなにより心根が優しい。
「お客さんに少しでも非日常を味わってほしい」。優しい彼の想いがこの盛り込みに込められている。
この後、飛龍頭椀、なんともみずみずしい真魚鰹西京焼き、ほうれん草とシメジのおひたし、冬野菜と鴨肉のココット焼き白味噌風味と続き、
自家挽き手打ちそばの、ひやかけそば辛味大根添えで締める。
これでコースが八千四百円。
アラカルトでの組み合わせも自由。
都心とは違うとはゆえ、良心の割烹といわざるを得ない。
そして酒飲みのには、大変危険な割烹でもある。
その証拠に、地元の年配独酌客男女が多く、いずれも酸いも甘いも噛み分けてきたであろう雰囲気を漂わす。
予約の際は、どうぞマッキーから聞いたと一言を。
一年ぶりの荻窪「有いち」である
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