「父はポモドーロのパスタが大好きでした」。
そのパスタを再現、再構築したという。
イタリアから日本に渡ってしばらくして、アントニオ・イアコヴィエッロシェフのお父さんは、お亡くなりになった。
遠く離れた日本で訃報を聞いた彼は、父が好きだったパスタを出そうと考えた。
南イタリア出身なので、サルサポモドーロには人一倍思い入れがある。
「日本のトマトは甘さが強く、水分が多い。同じように作ってもうまくいかない。そのため青トマトの酸味を使い、他にも数種のトマトを、様々な調理法で使っています」。
再現するといっても、リストランテでは、素朴なまま出すことはできない。
トマトを打ち込んだパッケロを、トマト水の中で茹で、サルサポモドーロと合わせた。
パッケロは、南イタリアらしい硬さに仕上げ、噛みしめる喜びがある。
グッと歯に力を入れて噛めば、優しいトマトのうまみが、ゆっくりと広がっていった。
凛々しい歯ごたえとは対照的な、気分を鎮静させ、穏やかな気分にさせる味わいである
そしてサルサポモドーロは、そのパッケロの繊細さに歩みを同じくするように、みずみずしさを残した仕上げで、丸い酸味が、トマトの味と小麦の香りを静かに盛り立てる。
小さい頃から柔道をしていたというシェフは、身長180センチ、ガタイもでかく、タトゥーも入れ、あまり笑わない、
少し怖く見えるが、心底優しい人なのだろう。
料理にその人柄が沁みている。
「うまいなあ」。
イタリア人でもないのに、しみじみと呟いた。
そして目を閉じれば、太陽が燦々と降り注ぐ、南イタリアのトマト畑が広がっていた。
銀座「Gucci Osteria da Massimo Bottura Tokyo」に