「ボーペサージュを水平で、8種類飲みませんか」。
ありがたい申し出に、すぐ思いついたのは「ルコック」だった。
食材の力を素直な心で引き出した、慈愛に満ちた料理は、間違いなく愛に満ちた自然の味と合うはずだと思ったからである。
なめらかで、エレガントな、鶏レバーとレーズンのムースと黒パンという突き出しから始まり、この世にある鮭料理の中で、一番だと疑わないスモークサーモン。
燻製した鴨の鉄分と鮑が奇跡的な出会いを見せる中で、マッシュルームとチースの香りが寄り添うラビオリ。
生きていた証を、歯と歯の間で躍動させる岩手県柳川の子羊のロティ。
そして東京で一番であると信じて疑わないモンブラン。
それぞれの料理の静かな呼吸が、ボーペサージュという生命の滴に溶けていく。
料理とワインは、しなやかに手を取り合いながら、時間を緩やかにし、夜を柔らかくし、ゆっくりと心を温めていくのだった。