フォアグラのテリーヌ

食べ歩き ,

そこには、退廃美をたたえた色気があった。
フォアグラのテリーヌは、今や珍しい料理ではない。
いやビストロ以外では、あまりメニューに載らなくなったようにも思う。
あらためていただき、息を呑んだ。
舌の上でそれは、甘い脂の香りを揺らめかせながら、じっとりと溶けていく。
微かに香る柑橘の酸味が味を締める。
優美という言葉はこの料理のためにあるのではないだろうか。
味に一切のよどみがないのに扇情的で、官能を揺さぶり、夢を見させる。
甘く色気を帯びた夢は、デカダンスの香りを帯びて、心を熱くする。
これは恋である。
ビストロのそれとは、次元をたがえる、妖しい恋である。
これを食べることが叶うなら、堕落してもいい。
そう思わせる恋である。
添えられたブリオッシュのトーストに乗せれば、バターと小麦の香りを舞いながら、さらに僕の胸を熱くさせるのだった。
「アピシウス」にて。