ハムカツの主役は、衣である。
衣の間に薄いハムが挟まっている。
ソースにまみれた衣を噛みしめながら、ハムの存在をまさぐる。
すると、微かに、けなげにハムが主張して、ああよかったと胸をなでおろす。
はかないハムのありように、人生の深みを思い知る。
ハムカツとは、そういう食べものである。
厚いハムカツはいかん。とは言わないが、情緒が欠落している。
だからハムカツのハムは、薄いに限る。
長い間そう信じて生きてきた。
しかしこの店のハムカツには、うろたえた。
ミルフィーユハムカツなのである。
恐らく五枚いりのハムのパックを、パックされたそのお姿のまま衣をつけ、油に投入したカツなのである。
厚いが、薄い。
そのどっちつかずが、僕の心を揺さぶる。
噛むと、微妙にハムがずれる。
ハムとハムの間に、ハムのエキスが染み出たヌルッとした食感があって、ドキリとさせられる。
衣のカリッにヌルっと来る、その対比に笑う。
衣とハムが対等に仲良くなさっている。
その佇まいに情緒はないが、これはこれでほのぼのとしていて、この料理の良心を表しているようにも思うのである。
金町「喝」にて。