トマトは毎夏、村山シェフの実家から送られてくる。
ピンポン玉より一回り大きいトマトは、お父さんが昔から作っていたものだという。
「無農薬だから、皮が苦くなくておいしいんです」。
送られてきたら、すぐに皮ごとつぶしてスープにする。オリーブ油と塩、微かにレモン汁。
パスタはフィローネ。「パスタでも素麺でもない麺を作りたかった」ために、デュラムセモリナ粉と小麦粉を、ほぼ半々配合した。
そして、わざと青臭さが香る生のトマトが添えられている。
麺は、つるりと唇を過ぎ、もちりとシコッの両方の歯応えがあって、極細なのに存在感がある。
それがトマトのスープをまとって口に登ってくる。
甘い。
オレンジのような香りがあって、清澄な甘みがある
いやらしさが微塵もない。
すっきりとして、可憐。
汚れのない。
おもねることがない。
その甘味は、どの言葉を使っても、近づくことが出来なかった。
自然の不思議に、村山シェフとお父さんの力に、今はただただ、笑うことしか出来ない。
完熟トマトの冷製フィローネ 「ラッセ」にて。