三鷹 ハルピン

セ ロ リ と餃 子。

食べ歩き , 寄稿記事 ,

セ ロ リ 餃 子 五百四十円

鮭、いか、海老、セロリ、チーズ五百四十円。ニラ、椎茸、ピーマン四百九十円。
すべてこれ、餃子と小籠包の店、「ハルピン」の餃子のラインナップである。

他店では例を見ない多彩な餃子だが、このラインナップは簡単に決まったわけではない。

十九年前にハルピンより帰国した店主、二宮千鶴さんが、数十種の素材の中より、試行錯誤を重ねて生み出した餃子なのである。
最近ラインナップに加わった鮭も、「臭みを取り除いて、鮭自身のうまみだけを引き出すのに、ずいぶん苦労しました」と話されるように、それぞれの餃子は、素材をただ豚肉の餡に練り混むのではなく、大きさや味のバランスを変えながら、何度も試作を重ねて、現在の形に至っているのである。

さて、その八種の餃子は、焼き、水、スープ(五十円増し)といった三種類の食べ方が選べるが、やはり人気は、皮がカリッと仕上がった焼き餃子だ。

中でもよく注文が入るのは、珍しい鮭とチーズだというが、春の時期ならではのお奨めは、旬のセロリを使った餃子である。
餃子を注文すると、二宮さんが自家製の生地を引きちぎって皮をのし、手早く餡を包んで焼き始める。
やがて目の前に現れる六個の餃子。薄茶色に香ばしく焼き上がった皮にせかされるように、酢醤油ダレにつけて口に運ぶ。

すると、むっちりとした皮に歯がめり込んだ途端、中から熱々のスープがほとばしる。
この店の餃子には、漢方薬を配合したスープが忍ばせてあるのだ。だから小籠包のように、やけどを恐れず一口で食べないといけない。
そうすれば、厚い弾力のある皮の歯触り、スープの滋味、よく練られた豚赤身挽肉餡のうまみが口一杯に広がることになるのである。
えっセロリはどうしたかって? そう、セロリはその時点では顔を出さないが、餃子を噛み締めて喉元に落ちそうになる頃、ふっと香りが鼻に抜けるのである。 ところが、
「ああセロリだっ」。そう気づいた瞬間、もう香りは消えている。
今度は、その香りを確かめようと、餃子を放り込む。ハフハフと熱さにあえぐ口の中で再び広がる、皮、スープ、餡のうまみ。ほんのり香るセロリの存在。
気がつけば、小さな餃子に閉じ込められた、四つの幸せにはまっている。