赤坂「皆美」

典雅なる味わいの茶漬け。

食べ歩き ,

鯛 め し 一 式 千五百円

「皆美」は、明治二十一年より島根県松江で旅館を営む、老舗旅館の東京支店である。
松江は、しじみ、鰻、すずき、鯉、白魚などで知られる穴道湖八珍を始めとして、豊富な山海の食材を産する土地であり、「皆美」でもその恩恵を生かした、四季折々の食事を楽しむことができる。 すずきの奉書焼き、アゴの野焼き、鰻のしゃくもどき、白魚のから揚げ、そばがきなど、松江の名物料理がずらりと並んでいて食欲が揺すぶられるが、「皆美」ならではの名物として、是非食べたいのが「鯛めし」である。
家伝として登録商標までされている鯛めしは、江戸文化文政のころに松江藩七代の領主、不昧公、松平治郷が、オランダ料理からヒントを得て、和風料理に仕立てたのが始まりとされており、その味を「皆美」は代々受け継いでいるのだそうだ。
鯛めし一式は、その鯛めしが手軽に楽しめる定食で、昼時のみ用意される。
盆の上には、アゴの野焼き(アゴで作られる蒲鉾のようなもの)、しじみのしぐれ煮、もろげ海老(川海老)のから揚げの小鉢と、ご飯が入れられたお櫃、そして、彩り鮮やかに盛られた、鯛めしの具の皿が配される。
丸皿にこんもりと盛られる具は、蒸した鯛をすり鉢ですり、鍋でカラいりした鯛おぼろ、玉子の黄身と白身のおぼろ、海苔、葱、わさびに大根おろし。これらを熱々のご飯の上に適量ずつのせ、昆布、鰹節、焼いた鯛骨でとった熱いダシを、たっぷりかけて食べるのだ。
茶碗を手にとって、フーフーと息を吹きかけながら、ザザッとかっこめば、骨の滋味が強く出たダシのうまさにに引きずられて、一膳目などはあっという間に食べ終えてしまう。
二膳目は、ほんのりと甘い鯛の身や、白身のつるんとした食感、黄身の甘みといった、味付けをしてない具自身の持ち味と、葱、海苔、わさびの香りを、一つずつ確かめながら、庭でも眺めて、ゆっくりと食べてみる。
再び熱いダシをを運んできてくれる三膳目は、残った具をすべてのせて、渾然一体なるうまみに、顔をほころばす。
といった具合に、典雅なる味わいの茶漬けは食べ終えるのである。
しかも、食べ終えた後もしばらく、胸や腹の辺りがぽかぽかと暖かく、体中がうららかな陽気で包まれたような、穏やかな余韻が残るのだ。