ストレスがない。ということが、どれだけ食物に恩恵をもたらすのだろう。
多くの学者が、おいしさの秘密を探ろうとしたが、証明されなかったという。
高校生たちの愛情を一身に受けて、伸び伸びと育った豚は、日本一、いや世界一おいしい。
その豚肉が、巧みな技術で揚げられる。
噛めば、ほの甘い、栗のような優しい香りが放たれて、その後から野生の香りが顔を出す。
優美と凛々しさ。
これこそが豚肉なのか。
精いっぱい生きた豚の証なのか。
噛めば噛むほど、濃い滋味が湧き出でて、舌に覆いかぶさり、迫ってくる。
味が津波となって、重ね重なり、陶然となる。
あまりのうまさに、むなしく笑い、「あわわわ」というしかない人間に、豚が問う。
「お前はわたしをきちんと味わっているのか? わたしを食べる価値があるか?」と。
うま味の余韻が長く、長く、食べ終えた後もまろやかな風味が、ずうっと居座っている。
その幸せを噛みしめ、そっと感謝をする。
「揚げているときの香りが、まったく違います」と、シェフは目を丸くした。
僕は、このヒレ肉を噛んだ瞬間、全身に電気が走り、鳥肌が立った。