銀座 バーランドスケープ

ジントニックの深淵

食べ歩き ,

「ジントニック」です。
「バーの初心者や、このバーに初めて来て何を飲もうか悩んでいる方は、何をおすすめされますか?」
そう聞いたら、松尾さんはそうきっぱり答えられた。
ジントニックは、それこそカラオケボックスからスナック、そしてバーまで様々な店で飲むことができる。
だからこそ、その違いと美味しさを知ってもらい、カクテルの魅力を知ってもらいたいのだろう。
「ではどのような考えで作られているのでしょうか」と、聞くと
彼女は少し困ったような顔になり、
「あまりにもたくさんありすぎて、全部は言えないのですが」と前置きしながら「どのジンを選ぶのか、トニックウォーターはどれを選ぶのか、ジンは冷凍庫に入れるのか入れないのか、氷の大きさ、個数、組み方、注ぎ方、注ぐ順番、グラスの選び方、ライムの絞り方ステアの速度や回す回数など、数多くあります」。
ご存知のようにジントニックは、ジンとトニックウォーター、ライムジュースによるカクテルである。
素人でも簡単にできるが、果たしなく深い。
見ていると氷は四個入れ、隙間なくぴっちりと組まれている。
ステアしても氷が遊ばず、溶けないようにだろうか。
ライムは、皮のえぐみが出ないよう、果実のところだけを絞り器の先に斜めにあてがって、それを回しながら絞り、最後は手で優しく絞る。
トニックウォーターは、氷に当てないように入れ、ゆっくりとステアする。
こうして神経を注いだジントニックが、バカラのグラスの中で輝いている。
飲めば、ジンとライムがやって来て、後から炭酸が追いかける。
ライムの爽やかな香りとジンのたくましさを、炭酸と甘みが痛快に持ち上げる気配があって、しみじみとおいしい。
僕は、少しだけ幸せになった気分を、噛み締めた。