湯島「シンスケ」

シンスケの夏。

食べ歩き ,

「こんばんは」。 
火照った体を引きずって 
黒格子に続く縄のれんをくぐる。 
曇りガラスに「シンスケ」と透かした板戸を引けば、 
「いらっしゃいませ」と声かかる。 
まずはビールに枝豆か。 
きりりと冷えたビールを注ぎ、枝豆つまんでお疲れ様。 
猛暑遠のき、体に生気が蘇る。 
甘い枝豆に目を細め、殻捨ての染付け器に並べてく。 
張りだされし、白紙短冊品書きをじっくり吟味。 
お次は「シンコ」といってみよう。 
「あいすいません。今日はシンコが入らなくて、コハダになっちまうんですが」。 
と、ご主人。 
よかろう、いただこう。 
コハダの銀皮に、波のしぶきが舞い踊り、 
きりりと酸味が舌に切り込んでくる。 
こいつは酒だと、常温酒。 
両関純米、正一合。 
「冷奴おまちどおさまでした」。 
豆腐の甘い、冷たい肌が、つるんと唇喜ばす。 
いいねえ、これが夏だよ、もう一合。 
さて、 
最後の締めはどうしよう。 
おっと、いいねえ。 
「コチの冷っ汁」を、めっけちゃいましたよ。 
ずるるっと掻き込めば うまいねぇ。 
コチの滋味が生みだす、涼味の深み。 
海と山の恩恵。 
水の味。 
日本の夏。