コロッケ

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コロッケ

衣がうまいなあ」。
渋谷「ひまわり亭」で思わずひとりごちた。

渋谷 鉢山交番近くにある「ひまわり亭」は、料理研究家だった女主人が、友人と二人で開いた、小さな定食屋だ。

「コロッケ定食」千円。
「日替わり煮魚定食」千円。
出来ますものはこの二つ。

料理研究家なので、もっと品数を増やしてもよさそうなものだが、自分の信じている食材と調味料でやり抜こうと開いた店ゆえ、これで精一杯だという。

パン粉は、国内小麦粉 粗糖 天然酵母 食塩 添加物なしで特製したもの。
揚げ油は菜種油。
ジャガイモも無農薬。
牛肉も信頼の置ける店の手挽き。

料理を齧ったことのある人なら、
これがどれだけ材料費としてかかり、
二個のコロッケ定食が千円でもお値打ちなことを知ってるはずだ。

でもそんなことはどうでもいい。
一切頭から忘れて、コロッケにかじりつこう。

「カリリッ!」。
衣に歯を立てると、軽快な音が響く。
香ばしい衣は、まったく油気を感じさせない。
軽く、濃い香りが胃袋を刺激する。

衣を突き破れば、熱々の湯気が立ち上って、
芋の甘みが口いっぱいに広がっていく。

この瞬間、微笑まない奴がいたら、友達にはなれないな。

歯が芋に包まれ、隙間から肉のうまみがそっと顔を出す。

ソースもいらない。
塩もいらない。

コロッケは、もうそれだけで完成の円を描いて、どこまでも優しい。 

 



ps
もちろん煮魚も、味噌汁も、小鉢も、そして光り輝くご飯も
至極真っ当。
心が清清しくなる。

東京にこんな店があることが、幸せだ。