世の中で、こんなにたくさん飲める液体ってないでしょ

食べ歩き ,

「世の中で、こんなにたくさん飲める液体ってないでしょ」。

かつて八重洲にあったビアホール「灘コロンビア」で、ビール注ぎの名人と呼ばれた故新井徳司さんが、得意げに語っていたのを思い出す。新井さんが注ぐビールは苦くなく、甘く、軽くて、何杯でも飲めた。

ビールを楽しむコツ、その第一は、ビール注ぎのうまい店に行くことにある。例えば、新井さんの薫陶を受けた、新橋の「ビアライゼ98」に出かけてみよう。泡がきめ細かくクリーミーで固く、、すうっと軽やかに喉に入っていって、ビールの香りと甘みだけが残る。

何杯も飲めてしまうのは、ホップの中のイソフムロンという物質が生かされていて、渇きをいやすのと同時に、次の渇きを呼ぶ本来の働きをしているからである。

飲み方は、均等に飲み進むことが肝要だ。飲み終わったとき、グラスに残った泡の線の間隔が均等で、三百CCのグラスなら5~6本残るくらいが好ましい。ただ意識しすぎてはいけません。無意識に出来るようになるよう鍛錬すべし。これが第二のコツである。

第三のコツは、グラス選びにある。取っ手のついた大ジョッキや中ジョッキグラスは、縁が厚くて飲み心地が悪いうえに、最後のほうは苦味を感じてしまう。取っ手によってビールの冷たさを手で感じることが出来ない(直接持てという話もあるが、飲みにくいでしょ)。3~400ccの高さ16~8センチほどの小ジョッキかグラスを頼んで何杯も飲む。なければ、200ccのグラスでもいい。効率は悪いが、うまく飲む方法である。

家で飲む場合もこのサイズのグラスで、縁の薄く、軽いものを買い求め、ビール専用グラスとして、よく洗浄し、事前に冷やしておくと楽しい。

次に重要なのが、雰囲気である。一人しっぽりとやるというのが似合う酒ではない。心も体も開放して、くいーっとあおりたい。例えば、ここはドイツかと思うほど大声でドイツ語が飛び交う、六本木の「バーンズバー」。外に目を向けなければ完全にアイルランド、恵比寿の「イニッシュモア」や東品川の「ザ・ラウンドストーン」というアイリッシュパブに出かけるのもいいだろう。

あるいは明治記念館の「鶺鴒」で、籐の椅子に座り、芝を敷き詰めた広々とした庭を眺めながら飲むビールもいい。

相手も大事で、気の合う仲間、ビール好きの友人がベスト。話題は、仕事や政治、宗教、人の噂は厳禁。サッカーやゴルフ、野球の話などが似合う。映画や小説の話題もいいが、色事や博打系の話は、暴走する奴もいるので気をつけよう。

店選び、飲み方、グラス、雰囲気ときて、次に気をつけたいのは、事前の心構えだ。スポーツの後においしいのと同様、体内水分量が少し足りない状態を作り出しておく。サウナに出かけて、必ず水風呂でしめ、渇きと火照りが同時に体の中で渦巻いている状態が好ましい。そこへ冷たいビールをぐぐっと流し込む。ああたまりません。

ちなみにわたしの経験では、マッサージの後もうまい。もみほぐされた体に、染み込むようにビールが吸収されていく。

後はつまみだ。枝豆、フライドポテト、ソーセージ、鶏の唐揚げ、焼餃子、コロッケにメンチカツ、ソース焼きそば、皿うどん、オニオンリング、タコス、ピッツァ。

食べた瞬間に「うまいっ」と笑う、脳天直撃型単純明快入魂痛快ワハハな料理をずらりと並べて、さあ飲むぞぉ。