ガリッ

食べ歩き ,

ガリッ。歯は岩塩に当り、肉にめり込んでいった。
「噛め」。肉が叫ぶ。
前歯で千切り、奥歯で噛みしめるうちに、赤牛のエキスが止めどもなくあふれ出る。
肉汁に甘えがない。
脂の甘みに頼ることなき筋肉の凛々しさが、津波となって押し寄せる。
鉄分の滋味や勇壮で健やかな牛だけが持つうま味が、舌の上で渦を巻く。
「ふんっ」。
肉に焚きつけられた高揚が、鼻から出、目を見開かせて、また肉に向かう。
内なる野性を叩き起こす猛々しい味わいながら、どこか穏やかな風味にも包まれている。
これこそ、豪州や米国とは違う土佐赤牛の品なのだろう。
それを薪火の力で引き出した、シェフの力量なのだろう。
同じ日本に生まれ育ったことを感謝する牛である。
赤坂「ヴァッカロッサ」。「ビステッカ・アッラ・トッサーナ」。